あの日のチョコレートの約束は
バレンタインも近いですね。未だにバレンタインの正確な日時を覚えていなくて今年もいつがバレンタインなのか分からないんですが、毎年この時期にはある出来事が思い出されます。
少年うるうるの昔話を読んでいってください。
中学3年生のころ、通っている中学校の中では上の下程度の学力のうるうる君は地元から少し離れた進学校(※実態は自称進学校)であるK高校を受験しました。また自宅から10分ほどで通えるN高校も滑り止めとして受験していました。
ある程度勉強をして受験当日に手ごたえを感じていたうるうる君は筆記試験終了直後からすでに合格したという確信を抱いていたため特に緊張もなく合格発表の日を迎えます。
親も心配しているし自分の合格ぐらい見届けるか、そう思い立ち家を出ました。しかしその足の向かう先は第一志望のK高校ではなく滑り止めのN高校。
うるうる君の住んでいる地域の高校受験の場合、合格していれば自分の受験番号とともに『本校に合格』という文字が掲示されていますが、同時に受験したもう一校に合格していれば『(相手校に合格)』と掲示されるため第一志望とはいえわざわざ遠いK高校に行くのが面倒くさかったからです。
N高校に到着した時には既に合格通知は掲示されており、嬉しさや悔しさで騒がしい感情の渦をかき分け自分の受験番号と『(相手校に合格)』の文字を確認することができました。
あぁこれでぼくも高校生だ、合格している確信はあったもののやはり嬉しいものはうれしいのです、自然に頬が緩みます。笑顔のままN高校に合格通知を見に来ていた同級生たちとひとしきり勲等しあい、励まし、春休みの約束をして帰路につきました。この時点ではまだまだ帰っていく受験生たちは少なかったのですがやることをやったうるうる君にはもうこれ以上N高校に居座るよりも家に帰ってゲームをすることの方が優先度が高かったのです。
自転車を押して校門を出たところですぐ前に同級生のYさんがいることに気づいたので声をかけました。
「お、Yさんじゃん、これから合格発表見に行くの?」
ちょっと驚いたような顔をしてこちらを振り返ったYさんはうるうる君と自転車を並べてこう返します。
「あ、大丈夫だよ、受かってた。うるうる君は?」
「おめでとう!俺も受かってたよ。じゃあもう帰るとこ?」
「そうなんだよ、その辺まで一緒にいこっか」
しばし歓談を続けていたところでYさんが話題を変えてこう聞きました。
「てかもう帰るんなら今日とかヒマなの?」
このときのうるうる君の頭の中は家に帰ったら思う存分ゲームができるということでいっぱいでほかのことを考えられなかったのでしょう。
「あー、今日はちょっと(ゲームするっていう)予定があるんだよね。」
こんな返事を返しました。
「そっかぁ、春休みも思ったより短いよねぇ」
「あー、確かにKとかSとかと約束してたり高校の説明会とかあるしほぼ休める日ないなぁ」
そんな会話をしていたらYさんの家とうるうる君の家の方向への分岐点の近くまで来ていました。
「Yさん家って確かあっちだよね?」
「あっそうだね~。」
じゃあこのへんで、そう言いかけたうるうる君より早くYさんが言葉を発します。
「そういえばうるうる君ってチョコとか好き?」
「チョコ?アーモンド入っているやつは食べないなぁ」
「そっかぁ、受験のせいでバレンタインとかもチョコ作ってないんだよね。受験終わったし作ろうかな」
「いいんじゃない?じゃ俺はこのへんで」
そう告げ漕ぎだそうとしたうるうる君にYさんが後ろから声を掛けます。
「じゃあ高校入ったら私の作ったやつあげるよ!また高校で!」
「うん、また高校で」
別れの挨拶を終えたうるうる君は早くゲームの待っている家に帰ろうと心なし速度を上げて家に漕ぎ出しました。
この後うるうる君とYさんが高校で再開することはありませんでした。うるうる君はK高校に、YさんはN高校に入学していたからです。
入学式やそのあとでYさんはうるうる君を探したのだろうか。高校では接点がなく、成人式でもYさんと会うことができなかったので、あの日のチョコレートの約束は今でも果たされないままです。
今思いだすとあの頃のうるうる君はいったいなにを考えていたんでしょうかね。
バレンタインではないけれど、チョコの話なので毎年この時期に思い出します。死ぬまでには解決したいなぁ。
ここまで読んでくれてありがとうございました。